書体制作パートナー おりぜ

おりぜのメンバー

SCREENグラフィックソリューションズは2019年より、合同会社おりぜ(以下、おりぜ)と書体制作に関する業務提携契約を締結しています。今日ではヒラギノフォントの書体デザイン全般を担当いただいています。

今回はおりぜの岡澤さんと岡野さん、そしておりぜのパートナーである、フリーランスの書体デザイナーの宇野さんと吉田さん。こちらの4名からなる「チームおりぜ」の皆さんに、いまの体制ができるまで、書体制作の進め方、そしておりぜとヒラギノのこれからについてお話を伺いました。

(インタビュー・文:SCREENグラフィックソリューションズ 正木 洋介)


プロフィール

岡澤 慶秀(おかざわ よしひで)— 冒頭の写真右から2番目
書体デザイナー。多摩美術大学デザイン科卒業後、字游工房、フリーランスを経て2019年に合同会社おりぜを共同設立。代表的な書体にヒラギノ丸ゴシック体、ヒラギノUDフォント、ヒラギノ角ゴシック体W0、こぶりなゴシックW0/W9、ヒラギノ丸ゴ オールド、大日本印刷株式会社より秀英明朝漢字、秀英丸ゴシックなど。モリサワタイプデザインコンペティション2016佳作、2019和文部門金賞受賞。

岡野 邦彦(おかの くにひこ)— 冒頭の写真左から2番目
書体デザイナー。京都市立芸術大学デザイン科VD専攻卒業。デザイン会社に勤務後、Type Projectに参加。フリーランス(Shotype Design)として独立後、KABK Type and Mediaを卒業。2019年に合同会社おりぜを共同設立。ヒラギノUDファミリー、凸版文久体、ヒラギノ丸ゴ オールドなどの和文書体の欧文や、モリサワ「Role」プロジェクトに参加。モリサワタイプデザインコンペティション2012和文部門金賞、2014欧文部門佳作受賞。

宇野 由希子(うの ゆきこ)— 冒頭の写真右端
書体デザイナー。2013年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業 。有限会社字游工房を経て2021年よりフリーランス。仮名書体「こうぜい」で東京TDC賞2014 タイプデザイン賞、映像作品「夜は」で東京TDC賞2017 RGB賞を受賞。

吉田 雅(よしだ みやび)— 冒頭の写真左端
書体デザイナー。2024年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業。


合同会社おりぜができるまで

——岡野さんと岡澤さんはおりぜを設立される前、それぞれフリーランスとしてお仕事をされていましたが、おりぜを設立した経緯を教えて下さい。

岡野:もともとは岡澤さんがフリーランスになる前、字游工房に所属されていた時に、ヒラギノUDフォントのプロジェクトがあって、私に欧文制作の声を掛けていただいたのが最初です。 そして岡澤さんが「ヨコカク」という屋号で独立された後も、岡澤さん経由でSCREENさんのプロジェクトの依頼があって、欧文担当として加わっていた、というのが10年くらい続きました。たとえばヒラギノ角ゴW0は、それぞれがフリーになってから行われたプロジェクトでした。

岡澤さん、岡野さんが制作に携わった書体

岡澤:そんな中で2018年頃に、SCREENさんの方から、フォントの開発体制を強化するために法人化してプロジェクトを受けていただけませんか、という打診がありました。一人じゃちょっと難しいので、一緒にできる人として最初に思い浮かんだのが岡野さんでした。僕は和文をやって、岡野さんには欧文やってもらったらちょうどいいなと思って。

岡野:話を伺ってからいろいろと考えました。法人化してちゃんとできるのかなとか、それぞれフリーランスの仕事も抱えてましたし、すぐには難しいみたいなこともあったんですが、やらせていただきますと。

岡澤:おりぜを始めて5年ぐらい経ってわかったんですけど、岡野さんはすごくちゃんとしているので助かっています。

岡野:心配性なだけですけどね。

岡澤:設立したのが、本当にコロナが始まったタイミングだったんですよ。それでも最初は僕たちも普通の会社らしくしてみようと事務所を探したんです。

岡野:何件か見に行きましたね、池袋、後楽園あたり。でも、事務所を借りるのはこんなに大変なんだとか、借りても行く自信がないとか、結構わがままを言いまして。

岡澤:その後、本当にコロナが深刻になって、結果的に借りなくてよかったです。岡野さんありがとうございます。

岡野:わがまま言って良かった(笑)

おりぜにて制作された書体

「チームおりぜ」ができるまで

——おりぜ設立以降、書体の制作を進めながら体制を整えていかれたと思うのですが、設立当時からどなたかに作業をお願いしていたのでしょうか。

岡野:設立後しばらくは仮名と欧文を作って完結することが多かったのですが、あるプロジェクトで漢字制作が必要となった際に、二人だけでは難しくなり、宇野さんにお声がけしました。最初は数カ月だけ参加してもらい、また漢字の制作が決まればお声がけする、というのが数年続いたと思います。

——宇野さんにお声がけした理由は?

岡澤:宇野さんも以前字游工房にいらっしゃって、ヒラギノらしさをご存知だから、一から説明しなくてもやってもらえると思って声をかけました。「任せられる」というところが大事だったんです。

岡野:漢字制作ができる方っていうのはなかなかそういないですしね。

——宇野さんはフリーランスとして他のフォントベンダーの書体に携わっていたのでしょうか。

宇野:フリーになって最初にお声掛けいただいたのがおりぜさんでした。2020年に字游工房を退職して1年ほど休んだ後に、岡澤さんから漢字の制作があるからどうでしょう、とご連絡いただいて、ありがたくお受けしました。漢字制作のようなボリュームのあるお仕事はおりぜさんからいただいたものがほとんどで、他にはロゴや映像に使う文字のデザインなどを少しずつしていました。

——一番最近かと思いますが、吉田さんが「チームおりぜ」に加わった経緯を教えて下さい。

岡野:SCREENさんから、次に向けた大きなプロジェクトが始まりそうだとお聞きして、宇野さんも入っていただいて心強いんですが、それ以上に期間もボリュームも大きくなりそうだったので、もう一人加わってもらいたいと思いました。 単純に制作していただくだけではなくて、次の世代に繋げていくプロジェクトとして、若い方にできるだけ早い段階から入ってもらいたいという思いがありました。ただ、探すといっても、募集してたくさん応募があったりすると対応しきれないと思って、紹介していただけたら一番だと思っていたんですよね。

岡澤:そんな時に、フォントベンダーでインターンをされていた素晴らしい人材がいます、と紹介していただいたのが吉田さんでした。愛知にお住まいとのことでオンラインでお話して、ありがたく引き受けていただきました。

——じゃあ、おりぜさんからお声がけされたんですね。インターンは大学生の頃に参加されていたのですか?

吉田:はい。大学3、4年生の時に参加させていただきました。夏の期間だったので1ヶ月弱の期間です。3年生の時にフォントベンダーでのインターンについて相談させていただいた所、前向きに検討してくださいました。

岡澤:それは書体制作の会社でインターンをしてみたいと思われたんですか?

吉田:以前から文字に関わる仕事がしたいと自分の中で決めていたんですが、その中でも特に書体の仕事に興味があったので、一度行ってみたいと思っていました。インターンでは実際に作る現場を拝見できたり、仕事として書体制作をしているデザイナーさんのご指示を直接いただけたりすることがとてもありがたかったです。はじめてGlyphsを触ったのもその時でした。

左から)吉田さん、宇野さん

書体制作の進め方

——「チームおりぜ」の体制が出来上がって、現在新たなプロジェクトをチームおりぜの皆さんと一緒に進めていますが、その内容について簡単に紹介してもらえますか?

岡野:現在SCREENさんと進めているプロジェクトの一つが漢字データの見直しです。ヒラギノは最初期のヒラギノ角ゴシック体、ヒラギノ明朝体がリリースされてから30年以上経ちます。初期の技術で作られていたこともあり、今となっては扱いにくいデータになっていたので、これからのことを見据えて調整しています。その調整された漢字をベースに、次につながるような書体を考えながら進めていっているところです。

——そうですね。今の体制でプロジェクトを進めるにあたっての進め方や役割分担を教えて下さい。

岡野:書体の全体的な制作の流れでいうと、まず制作のためのデータを整備して、漢字を制作して、並行して仮名と欧文を制作していくというような流れになります。

現在進めているプロジェクトからやり始めたこととしては、できるだけ少人数で可能な限り短期間で作るための自動化です。今まで通り人力だけで作っていると、どうしても時間がかかってしまうので、自動的に形の処理をできるところはできるだけプログラムを作って自動化して、生まれた時間に手でブラッシュアップしていければいいなと。決して新しいやり方とは思わないのですが、できるだけ手で制作する時間を増やせるように変えられることを試してみたいと思っています。

私は欧文の制作が中心だったので、漢字制作はあまり経験がなくて分かっていない部分も多いんですが、逆に分からないからこそ思い切って提案している部分が結構あります。だからメンバーに見てもらってフィードバックをもらい、効果的な方法を探りながら進めています。

岡澤:そのおかげで制作のスピードアップも絶対あると思う。あと、再現性があって、次に取り組む時にゼロからじゃなくなるのがすごく良いなと思っています。

岡野:以上のデータ整備が第一段階で、それをもとに文字の制作が始まるのですが、今回から宇野さんに全体を統括するまとめ役を担っていただくことにしました。整備したデータをお渡しして吉田さん、岡澤さんが加わって漢字を進めていく、という流れです。

——じゃあ、吉田さん目線だと岡野さんからデータをもらって、宇野さんの指示に従って作業していく感じなんですね。1日に何文字くらい制作されるのでしょうか。

吉田:最近はだいぶ慣れてきたので、1日40文字とか、それ以上までいけるように頑張っています。

岡澤:作業を進めていると、少しずつ勘どころがわかってくるじゃないですか。ここを見ればいい、よく触るのはここだなって。最近はなにかそういうところはありましたか?

吉田:点の形を意識するようになりました。始筆や終筆の向きやカーブに違和感のあるところは、なんとなくわかるようになってきました。

——宇野さんからはどういう指示が来るんですか?

宇野:この部分のカーブをもう少し抑えてとか、オンラインでやりとりしていることもあって、細かいところまで具体的にお伝えしています。プレッシャーになっていないか、本当に心配なんですけど…。吉田さんはすごく丁寧なんですよ。漏れなく見ていただいているし、最近は主な作業項目以外でも形が少し不自然なところなどにも気づいて直してくださるようになって。フィードバックを出したことはその後の作業にもしっかり反映してくださるので出しがいがあります。

吉田:宇野さんにはすごく丁寧に教えていただいています。私一人では合っているのか悩んでしまうことが多いので本当にありがたいです。

——何回かやりとりをされるんですか?

宇野:何回かやりとりすることもありますが、一度お願いすると、基本的にすぐ直していただけるので、だいたい1往復ぐらいで仕上がっていて、助かっています。

——統括、仕上げというのはどういう作業をされるのでしょうか?

宇野:基本的には、制作の時とチェックするポイントはあまり変わらないんですが、作業をする人が違うと微妙な感覚の違いもあるので、そのあたりを揃えていくという感じですね。ちょっと元の形から変えすぎちゃったとか、ちょっと空きが狭いなとか。人が作っているので個人の中でも少しのブレや見落としはありますし。今回のプロジェクトは私も制作に入って吉田さんと二人で進めているのですが、私自身が制作した分も一回離れて、改めて仕上げ作業をすることで気づけることがあるんです。

岡野:ひとそれぞれでやり方は変わりますか?

岡澤:プロジェクトによってやっぱり変わりますね、関わっている人数とか。今は結構シンプルですが、あと二人増えたりとかすると、また違う仕事が出てきたりします。

岡野:今進めている工程が終わって次のフェーズに入ると、レベルがもう一段上がると思うんですよね。ひょっとしたらもう一人増えることも考えられるんですけど、人が増えれば増えるほど、進め方は違ってくるのでしょうか。

宇野:一人ひとり癖があって、この方はこういうところが得意だなとか、そういうのがやっていると見えてくるので、どなたが作業したかによって、仕上げの作業で手を入れるポイントもちょっと変わってくるとは思います。ただ、制作する文字数は一緒なので全体の流れや作業量としてはそれほど変わらないかもしれないですね。

——ちなみに文字のチェックはディスプレイで見るんでしょうか。それとも紙ですか?

宇野:今はディスプレイが中心ですね。

岡澤:そうですね。昔は紙に出力していた時もありましたけどね。

宇野:試作とかは印刷しています。全体的な雰囲気を見たい時は、私は紙で見た方が印象を掴みやすくて。細かいところまで見えすぎてしまうからか、ディスプレイだとあまりピンと来ない時があるんです。なので試作とか制作の序盤では印刷するんですけど、漢字制作の個々の文字のチェックなどは最近は印刷はしないですね。

——前まで岡澤さんがやられていた作業を、いま宇野さんが担当されているのでしょうか。

宇野:はい。以前のプロジェクトでは私も岡澤さんにフィードバックをいただいていました。

岡野:僕は書体制作会社に勤めたことがなかったので、漢字の制作を初めて近くで見ているのですが、和文書体制作っていうのは漢字だけで7000文字くらいあって、そこに欧文と仮名とかが入って、それらを「一つにまとめる作業」っていうのがすごく大事なんだと知りました。 これまでは岡澤さんが担当していたんですが、新しいプロジェクトになるので、岡澤さんがやってその中で伝承していくより、初めから宇野さんにやってもらった方がいいだろうという思いがあったんです。僕が知らないから無茶振りをしてしまっているのではないかと思ったんですが、本当にうまくやっていただけているなと思って、お任せしています。

左から)岡野さん、岡澤さん

新しい世代で作る、ヒラギノの次の30年

——コミュニケーションは常に4人で、オープンなところでされているんですか?

岡野:今日は素敵な取材場所を借りていただいたんですが、私たちは事務所を持っていないので、普段はオンラインで、やりとりはオープンにしています。吉田さんが担当していないところ、例えば試作も、どういうことをやっているか見てもらおうと。ミーティングは、全部には参加はいただいていないんですが、見ておくというのが大事なんじゃないかと思っているので、できるだけオープンな場でやりたいなと思っています。

岡澤:全部わかっていてもらった方がいいですもんね。岡野さんとも二人で話していたんですが、ヒラギノの世代変わりのタイミングだなと思っているんです。 これまでのヒラギノと、これからのヒラギノは少し違ってくるだろうなと思っていたので、このタイミングで担当する方が変わるのはちょうどいいなと思っていました。 だから、大変だろうなとは思いましたけど、全然心配はせずに、宇野さんにお願いした次第です。宇野さんと同世代の正木さんも最近ディレクター的な立場になられて、いいタイミングだなと思っていました。

岡野:恐らくヒラギノも30年前は、当時設立間もない字游工房さんとSCREENさんが一緒にゼロから立ち上げたんじゃないかな。それから30年経って、これまでのヒラギノを継承して活かしながら、次のところへ進んでいこうとしているところで、正木さんもゼロから入っていただけているというのが本当に良かったと思っています。

——そう言っていただけて嬉しいです。次につなげていく、というところで、例えば書体の作り方とか、書体のどこを修正するのかを伝えるのって難しそうだと思いました。これは日々のフィードバックや作業の中で伝えていくのでしょうか。

宇野:そうですね。制作を始める時には私の方である程度の文字数をやってみて、こういうところはこういう風に処理します、これぐらい狭いところはダメです、みたいにできる限りルール化して共有します。あとは正木さんにおっしゃっていただいたようにやりながら少しずつ擦り合わせていくような感じです。

——吉田さんは書体制作のお仕事を実際にお仕事としてやってみてどうでしょうか。

吉田:制作への意識が変わったと感じています。それこそ学生時代は自分の好きなものを作ればいいという考えがどこかにあったんですが、お仕事として携わらせていただくと、使う誰かのためのことを考えないといけなくて。更に書体は長い期間を使って作り上げていくものだと思うので、先のことも考えなくちゃいけないというのがすごく難しいです。

岡澤:先のこと、というのは?

吉田:製品化されるまでに2年や3年という年月を使うので、将来出た時に使ってもらえる書体を前倒して考えなくちゃいけないというのが学生時代と違いますね。

岡野:今もSCREENさんのプロジェクトで、中長期的なこと、予定表の中では2030年くらいまで考えていますよね。元気でまだやっているかな?リニアモーターカー走るかな?そんな先の事を考えていかないといけないと思いますよね。

——私も「2030年、どうなるんだろう…」としみじみと思っていました。

岡野:僕の中ではもっと先がありますよ!そういう意味でいうと、ヒラギノのカタログには「100年後もスタンダードであるために」と書かれてますから。100年後のことまでは流石にわからないですが、次の30年ぐらいは。

宇野:最近行った試作の時にもお話していましたが、次の30年を見据えて、拡張性を重視して考えていましたよね。もちろん進行中のプロジェクトも大事で、ひとつの書体をしっかりやりきることが今の目標なんですが、そこから先にいろんな可能性があって、いっぱいの書体が頭にあるというか、いっぱいのヒラギノがあります。正木さんにはたくさんディレクションしていただかないといけないんですが。

——はい、たくさんディレクションさせてください。

岡野:僕たちもSCREENさんと一緒に作らせていただきたいなと思っています。

岡澤:SCREENさんとこんな感じでお話ししながら進められたらいいですよね。試作にもいろいろフィードバックをお願いします。

岡野:今進めているプロジェクトが終わった時に、このインタビューを振り返って、実際やってみたらこうだった、という話がしたいですね。

——定期的にこういう機会を設ければと思っています。本日はありがとうございました!

(写真:本多 康司)